大阪府堺市の幹線道路と住宅が混在する一角に、古くから地域住民に愛されている『味楽』という焼肉店がある。とても繁華街とは呼べないひっそりとした場所にありながら、宵の口から他では味わえない“焼き肉体験”を求める客で溢れかえるほど賑わっている。
僕も物心つく前からここの味に親しんでいるファン、というよりもう「自分のDNAにこの店のタレの成分が刻み込まれている」と言っても良いかもしれない。時々無性に食べたくなるし、大阪に帰ったのにこの店に行かないと大きな喪失感を抱いてしまう。この店に行くためだけに、飛行機やバイクに乗って大阪に帰ることもあるぐらいだ。
というわけで、大型連休に大阪へ帰省したついでに(例のごとく)突撃した。
ちなみに今回の写真はEOS 6Dに、中古で買ったばかりのEF 24-70mm F4L IS USMで撮ったもの。今までズームレンズの画質が好きになれなくて避けて来たけど、限定された空間で動く人を撮るのにAFとズームが必要だと痛感して、初めて標準ズームレンズを買ってみた。早速夜の店内で撮ってみたけど、自分が動き回れないシチュエーションでのズームと、暗い室内での手ぶれ補正はやっぱ便利よね・・・。
店の入口では持ち帰り用の肉を売っている。
もう40年近く前のことになるが、子供の頃に同居していた叔父さんが、年に何度かここで肉を買って来てくれた。家のホットプレートで焼き肉をしたり、河原でバーベキューをするためだ。
ここで持ち帰り用の肉を買うと、空気をパンパンに入れて膨らませたビニール袋に入った、この店オリジナルの“タレ”が付いてきた。そのタレがとても甘い上に、ショウガとニンニクが底に沈殿する(関西弁で「いさる」と言う)ほどたっぷりと入っていて、これが何とも美味しかった記憶がある。その薬味があまりに強烈で、翌日の昼すぎまで舌にその味が残っている。もう昨晩の記憶だけで白飯を何杯も食べられるくらいに。この店に通う常連たちは、恐らくみんなこのタレを目当てにこの店に通っていたんじゃないかな。
とにかく『味楽』のことは、味と匂いと、翌日まで舌に残るピリピリとした感触といったフィジカルな体験として、数十年間経っても褪せることなく僕のカラダに記憶されている。
当時の庶民(例えば僕の家庭だ)が通う焼肉店は、薄味のタレで食べるには獣臭がちょっと厳しいような安い肉や部位を、濃厚なタレに浸すことで肉本来の旨味とは別の魅力を添えて、店のオリジナリティと幾分かの中毒性を提供していたんだと思う。
店内はロースターからモウモウと立ち昇る煙で充満している。壁面のほとんどを占める窓を開け放ち、大型の換気扇をフル稼働させてもなお霞が晴れず視界が悪い。食事中にも安定した眺望を確保したい向きには、フォグランプの携行とゴーグルの着用をオススメしておく。赤外線スコープがあればなお安心だ。もちろん服やバッグにも強烈な匂いが染みこむので、焼肉のための戦闘服の着用が欠かせない。
くだらない冗談はさておき、いちど容量の大きなリュックを持って入ったことがあったのだが、翌日そのリュックを開けた途端に中から前夜の匂いが這い出して、自宅に『味楽』の空間が再現されたことさえあった。
店内を見下ろす歴代の招き猫たちも、ご覧のとおりに黒く煤けている。
清掃がしにくい壁や天井までを、客が見て不快感を覚えない程度にキープするのは大変だよね。
現在は三代目が店を切り盛りしているようで、スタッフもみんな若くてテキパキと働いている。昔と比べると接客も愛想が良くなり、お揃いのスタッフTシャツやホームページができ、味も含めたソフト面では随分と現代化されているが、店の内装と良心的(過ぎるほど)な価格設定は昔のままなのが嬉しい。
オーダーした肉が大皿にドーンと盛られてやって来る。
昔はロース(カルビだっけな?)を頼むと、長辺が30cm近くある大きくて薄い肉が大皿に一枚だけべろ~んと乗って出て来た。それを焼いてハサミで切りながら食べるスタイルだったのだが、いつの間にか普通の大きさで登場するようになった。でも薄さは相変わらずなので、ロースターに置いてから食べるまでのインターバルが短くて忙しい。
先程ショウガがどっさりと入った濃いタレが甘くて薬味が効いていて美味しい・・・と書いたけど、ここ数年で随分とマイルドな味に変わってしまったのが残念なところ。しかし他の方のブログを読むと、ショウガとコチュジャンを追加で頼むことが出来るらしい。それをタレに混ぜたら昔の味に戻るんだろうか?次回は試してみたい。
キャベツは無料でお代わりし放題、始めに出されるキムチも無料、肉には山盛りのモヤシが付いて来る・・・というカラダにも財布にも優しいシステムはまだ健在だ。
肉を置いたら脂から炎が上がり、消火するためにモヤシをかぶせ、焼けた肉を口に放り込みながらミノの焼き加減を確かめているうちにモヤシが炭化し・・・というワニワニパニック的な忙しさもまた楽しい。焼き始めてから30分もすればもうお腹いっぱいになる。
この日は父が運転手を務めたため酒は控えたが、大人3人が食べて飲んで約5,600円。安い!
この味と値段、そして雰囲気はあまりにも独特過ぎて、東京では『味楽』の代わりを見付けられないと思う。川崎の産業道路周辺にある焼肉屋が似たような感じではあったけど、僕にとっては完全に似て非なるものだ。
もちろんどちらが優れているということではないんだけど、子供の頃から骨の髄にまで染み込んだ『味楽』の味と雰囲気が、自分にとって特別な価値があるということなのだろう。そういう食事をソウルフードと呼んでいいのかな。何十年経っても味をしっかり覚えている料理って、それほど多くはないし。
もしかしたら、味が濃いから覚えているだけなのかもしれないけど。
僕も物心つく前からここの味に親しんでいるファン、というよりもう「自分のDNAにこの店のタレの成分が刻み込まれている」と言っても良いかもしれない。時々無性に食べたくなるし、大阪に帰ったのにこの店に行かないと大きな喪失感を抱いてしまう。この店に行くためだけに、飛行機やバイクに乗って大阪に帰ることもあるぐらいだ。
というわけで、大型連休に大阪へ帰省したついでに(例のごとく)突撃した。
ちなみに今回の写真はEOS 6Dに、中古で買ったばかりのEF 24-70mm F4L IS USMで撮ったもの。今までズームレンズの画質が好きになれなくて避けて来たけど、限定された空間で動く人を撮るのにAFとズームが必要だと痛感して、初めて標準ズームレンズを買ってみた。早速夜の店内で撮ってみたけど、自分が動き回れないシチュエーションでのズームと、暗い室内での手ぶれ補正はやっぱ便利よね・・・。
店の入口では持ち帰り用の肉を売っている。
もう40年近く前のことになるが、子供の頃に同居していた叔父さんが、年に何度かここで肉を買って来てくれた。家のホットプレートで焼き肉をしたり、河原でバーベキューをするためだ。
ここで持ち帰り用の肉を買うと、空気をパンパンに入れて膨らませたビニール袋に入った、この店オリジナルの“タレ”が付いてきた。そのタレがとても甘い上に、ショウガとニンニクが底に沈殿する(関西弁で「いさる」と言う)ほどたっぷりと入っていて、これが何とも美味しかった記憶がある。その薬味があまりに強烈で、翌日の昼すぎまで舌にその味が残っている。もう昨晩の記憶だけで白飯を何杯も食べられるくらいに。この店に通う常連たちは、恐らくみんなこのタレを目当てにこの店に通っていたんじゃないかな。
とにかく『味楽』のことは、味と匂いと、翌日まで舌に残るピリピリとした感触といったフィジカルな体験として、数十年間経っても褪せることなく僕のカラダに記憶されている。
当時の庶民(例えば僕の家庭だ)が通う焼肉店は、薄味のタレで食べるには獣臭がちょっと厳しいような安い肉や部位を、濃厚なタレに浸すことで肉本来の旨味とは別の魅力を添えて、店のオリジナリティと幾分かの中毒性を提供していたんだと思う。
店内はロースターからモウモウと立ち昇る煙で充満している。壁面のほとんどを占める窓を開け放ち、大型の換気扇をフル稼働させてもなお霞が晴れず視界が悪い。食事中にも安定した眺望を確保したい向きには、フォグランプの携行とゴーグルの着用をオススメしておく。赤外線スコープがあればなお安心だ。もちろん服やバッグにも強烈な匂いが染みこむので、焼肉のための戦闘服の着用が欠かせない。
くだらない冗談はさておき、いちど容量の大きなリュックを持って入ったことがあったのだが、翌日そのリュックを開けた途端に中から前夜の匂いが這い出して、自宅に『味楽』の空間が再現されたことさえあった。
店内を見下ろす歴代の招き猫たちも、ご覧のとおりに黒く煤けている。
清掃がしにくい壁や天井までを、客が見て不快感を覚えない程度にキープするのは大変だよね。
現在は三代目が店を切り盛りしているようで、スタッフもみんな若くてテキパキと働いている。昔と比べると接客も愛想が良くなり、お揃いのスタッフTシャツやホームページができ、味も含めたソフト面では随分と現代化されているが、店の内装と良心的(過ぎるほど)な価格設定は昔のままなのが嬉しい。
オーダーした肉が大皿にドーンと盛られてやって来る。
昔はロース(カルビだっけな?)を頼むと、長辺が30cm近くある大きくて薄い肉が大皿に一枚だけべろ~んと乗って出て来た。それを焼いてハサミで切りながら食べるスタイルだったのだが、いつの間にか普通の大きさで登場するようになった。でも薄さは相変わらずなので、ロースターに置いてから食べるまでのインターバルが短くて忙しい。
先程ショウガがどっさりと入った濃いタレが甘くて薬味が効いていて美味しい・・・と書いたけど、ここ数年で随分とマイルドな味に変わってしまったのが残念なところ。しかし他の方のブログを読むと、ショウガとコチュジャンを追加で頼むことが出来るらしい。それをタレに混ぜたら昔の味に戻るんだろうか?次回は試してみたい。
キャベツは無料でお代わりし放題、始めに出されるキムチも無料、肉には山盛りのモヤシが付いて来る・・・というカラダにも財布にも優しいシステムはまだ健在だ。
肉を置いたら脂から炎が上がり、消火するためにモヤシをかぶせ、焼けた肉を口に放り込みながらミノの焼き加減を確かめているうちにモヤシが炭化し・・・というワニワニパニック的な忙しさもまた楽しい。焼き始めてから30分もすればもうお腹いっぱいになる。
この日は父が運転手を務めたため酒は控えたが、大人3人が食べて飲んで約5,600円。安い!
この味と値段、そして雰囲気はあまりにも独特過ぎて、東京では『味楽』の代わりを見付けられないと思う。川崎の産業道路周辺にある焼肉屋が似たような感じではあったけど、僕にとっては完全に似て非なるものだ。
もちろんどちらが優れているということではないんだけど、子供の頃から骨の髄にまで染み込んだ『味楽』の味と雰囲気が、自分にとって特別な価値があるということなのだろう。そういう食事をソウルフードと呼んでいいのかな。何十年経っても味をしっかり覚えている料理って、それほど多くはないし。
もしかしたら、味が濃いから覚えているだけなのかもしれないけど。